春画展示研究会
2014年秋に大英博物館で「春画―日本美術における性と楽しみ展 Shunga : Sex and Pleasure in Japanese Art」が開催されます。この展覧会は、来年春に東京への巡回を予定していますが、開催館がなかなか決まりません。大英博物館のカウンターパートであるはずの東京国立博物館も(明治期のそれはいざ知らず国立民族学博物館こそがカウンターパートだという意見もあります)、また開館以来積極的に江戸文化の紹介に務めてきた江戸東京博物館も巡回先とはなりませんでした。ロンドンで開催可能なものが東京ではなぜ開催できないのか。逆に、東京で開催できないものがロンドンではなぜ開催できるのか。
江戸時代にあっては春画(枕絵・笑い絵・秘画・ワ印)そのものが非合法出版であり、明治社会は「春画及ビ其類ノ諸器物ヲ販売スル者」(違式かい違条例、1872年)を罰し、一般に公開すれば「猥褻物」として摘発される時代が長く続いてきました。出版において無修正のままに春画が掲載されるようになったのは、1990年代以降、きわめて近年のことです。しかし、国公立の博物館・美術館においては、春画の本格的な展示は実現していません。
春画が表立って論じられないがゆえに、春画だけが浮世絵研究から切り離され、在野の好事家によって春画が収集(秘蔵)され、研究されてきたという現実があります。その一方で、国際日本文化研究センターや立命館大学がアカデミックな立場から春画研究を進めてきました。
出版でも研究でも、実物を目にすることが大前提であり、公的な収集・保管は重要な課題です。そして、それらは公開されることではじめて補完され、公共財産=文化資源となるはずです。本研究会は、こうした春画を公開することが社会でどのように受け止められてきたのかを検証し、今後はどうあるべきかを考える機会とします。それゆえに、春画研究会ではなく春画展示研究会とします。プレイベントとして、昨年12月に辻惟雄先生の講演会を開催しました。
第一線の春画研究者をゲストとして招き、来春までに5回の研究会を開催します。現在、決まっているゲストはつぎの方々です(敬称略)。Timothy Clark(大英博物館)、早川聞多(国際日本文化研究センター)、石上阿希(立命館大学)、浅野秀剛(大和文華館)。
なお、本研究会は学会創立10周年を記念する「文化資源学の展望プロジェクト」のひとつとして設置されました。参加者は、原則として、5回の研究会すべてを受講していただきます。毎回数多くの春画を目にするということを承知でご参加ください。
2015.11.7
第八回春画展示研究会 東京大学法文2号館1番大教室 14:00〜17:30
第1部 報告
「春画とは何か」
- 早川聞多(国際日本文化研究センター名誉教授)
- 「京都と春画」
- ロバート キャンベル(東京大学教授)
- 「春画未満—永井荷風と明治期の美人絵葉書—」
「春画展を阻んできたもの」
- 浦上満(浦上蒼穹堂代表取締役)
- 「春画展開催顛末」
- 木下直之(東京大学教授)
- 「つまるところは猥褻をめぐる自主規制か」
第2部 討議
「春画と日本社会」
- 福岡真紀(リーズ大学准教授)
- 「見ることの歴史からみた二つの「春画」展」
- 石上阿希(国際日本文化研究センター特任助教)
- 「誰が見て、誰が語るのか」
2015.8.1
第七回春画展示研究会 東京大学法文2号館教員談話室 13:00〜18:00
- 木下直之
- 「春画展実現を前に、あらためて林美一に教えを乞う」
- 定村来人
- 「狂画としての春画ー河鍋暁斎の笑絵」
- 見学会「画鬼暁斎」展(三菱1号館美術館)
2015.2.28
第六回春画展示研究会 東京大学法文2号館教員談話室 14:00〜17:15
- 岩切信一郎(新渡戸文化短期大学)
- 「春画の近代を考える―橋口五葉のことなどー」
- 丹尾安典(早稲田大学)
- 「性 / 性器表現雑考」
2014.10.18
第五回春画展示研究会 東京大学法文2号館教員談話室 15:00~17:00
- 鷹野隆大(写真家)
- 「男の身体」
- 木下直之(東京大学)
- 「この夏に名古屋で起こった出来事について」
2014.3.28
第四回春画展示研究会 国際日本文化研究センター 10:00~18:00
- 石上阿希(立命館大学)
- 「大英博物館春画展へのリアクション−日本開催困難は"奇妙"なことなのか?」
- 鈴木堅弘(京都精華大学)
- 「春画・舌耕芸・説話 −近世前期の話芸の「場」から考える春画の笑い−」
2013.12.7
第三回春画展示研究会 東京大学法文2号館教員談話室 15:00~18:00
- 浅野秀剛(大和文華館)
- 「浮世絵、文学と春画―付、春画の出版・展示についての体験」
- 木下直之(東京大学)
- 「大英博物館春画展報告」
2013.12.7
第二回春画展示研究会 東京大学法文一号館315教室 15:00~17:00
- 早川聞多(国際日本文化研究センター教授)
- 「浮世絵春画の特色とその展示方法」
2013.5.25
第一回春画展示研究会 東京大学法文一号館115教室 14:00〜16:30
- 石上阿希(立命館大学衣笠総合研究機構ポストドクトラルフェロー)
- 「近現代の日本における春画受容の変遷−笑い絵から醜画へ−」
2012.12.8
第0回春画展示研究会 東京大学法文一号館113教室 15:30〜16:30
- 辻惟雄(MIHO MUSEUM館長、東京大学名誉教授)
- 「日本美術の中の春画」
- 12月8日(土)の講演会には、傘寿を迎えられた辻惟雄先生(MIHO MUSEUM館長、東京大学名誉教授)をお招きします。 先生は、38歳の時の著作『奇想の系譜』(ちくま学芸文庫)以来、近年の『日本美術の歴史』(東京大学出版会)にいたるまで、 日本美術に新たな光りをあて、その魅力を論じ続けて来られました。 今回の演題「日本美術の中の春画」は、学会からお願いしたものです。 それはつぎのような理由からです。 来年の秋に、大英博物館ではじめての「春画展」が開催されます。2014年春には東京に巡回される予定で、それに合わせて大英博物館の担当者を招き、 文化資源学会主催のシンポジウムを企画しています。しかし、東京展の会場探しが難航しています。 近年、春画の出版はかなり自由になってきましたが、美術館・博物館での公開はほとんど実現していません。 新聞社も腰が引けて、このままでは東京展がまぼろしに終わる可能性もあります。 そこで、学会では、来春、春画展示研究会(年間5回開催予定)を立ち上げることにいたしました。 それに先立って、早くから春画についてもひるむことなく発言して来られた辻惟雄先生をお迎えして、好事家のような「春画礼賛」ではなく、 まさしく「日本美術の中の春画」を語っていただこうと考えた次第です。 ご講演では、春画の画像がスクリーンで大きく映写されます。 このような世界が苦手、嫌い、見たくないという方も多々あるかと思います。 この点をあらかじめご承知の上で、当日はご参加くださいますようお願い申しあげます。