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文化資源の現在

研究会・講演会

趣旨

文化資源学 展望プロジェクト
鈴木 禎宏

 文化資源学会はもうすぐ創立15年を迎える。この15年の間に学会を取り囲む状況は変わり、また学会自体も変わった。

 学会の外に目を向けると、「文化資源」を名乗ったり語ったりする機関・団体が目につくようになった。国立民族学博物館は2004年に文化資源研究センターを設置し、金沢大学大学院、近畿大学文芸学部、同志社大学文化情報学部、弘前大学人文社会科学部、島根県立大学短期大学部が「文化資源」を掲げる教育プログラムを提供している。東京では2020年のオリンピック開催を前に、東京文化資源会議という団体がさまざまな活動をしている。

 これだけではない。様々な人びとが様々な意図で「文化資源」という言葉を用いるようになった。中には学術的な用法もあるが、時には「観光資源」と同様、「金儲けのネタ」というぐらいの意味で「文化資源」が使われることもある。対立する利害を抱えている人びとも、「文化資源」という同じ傘の下では一緒に過ごすことができるらしい。

 このように「文化資源」が一般化していく状況下で、文化資源学会はあくまでも学術研究としてこの言葉と向き合ってきた。現在では研究例会、講演会、遠足、博士号取得者研究発表会を毎年開催し、さらに学会誌を年1回発行している。研究の口頭発表、査読を経た論文の掲載、さらに博士号取得後のお披露目まで、学会としての一通りの機能を備えるまでにこの学会は発展した。これは誇って良いことであろう。

 ただし、そうした成長の一方で、学会内部の問題も顕在化してきている。その最たるものは、「文化資源学」がそもそも抱える矛盾、すなわち学際性と専門性の両立である。文化資源学会には考古学、美術史、文化人類学、文学、建築学、音楽学、舞踊学、博物館学など、さまざまなバックグラウンドの人びとが集っている。学会には異分野の人びとが集うフォーラムとしての機能があり、そこから新しい知見が生まれる可能性がある。ただし、そうした知見からなされた研究の質を判断する際には、あいかわらず旧来の個別の学問の基準が適用されている。

 あらためてこれまでの文化資源学の位置づけを振り返ってみると、それはなんと言っても人文社会学という領域(あるいは文学部という組織)における「その他」という役割である。そしてこの「その他」であることの中に、豊かな可能性がある。すなわちこの文化資源という領域においては、既存の学問分野で扱うことの難しい題材・テーマを扱うことが許容される。それゆえ、哲学・史学・文学等の枠組みに居心地の悪さを感じている人もここで研究発表を行える。あるいは、別に居心地の悪さを感じていなくても、既成の学問からはみ出た興味関心を「文化資源学」という枠組みで発表することもありえる。さらにいえば、既存の学問分野の中で充足している人が、単に研究発表の機会を増やすという目的で文化資源学会に入ってくることもあろう。そしてもちろん、既存の人文学の枠組みにとらわれず、最初から文化資源学を専門分野として専攻する人も次々に現れている。いずれにしても、人文社会学の中にあって、多かれ少なかれ領域横断的な志向を持っている人びと、あるいは、少なくともそうした志向を否定しない人びとが文化資源学会に集まっていると言える。

 いつの時代においても、新しい学問は、常に古い学問制度における「その他」の中から生まれてくる。今後学問制度がどのように再編されていくかはわからないが、おそらく再編の契機は「その他」の領域から始まる筈である。それは自然科学だけでなく、社会科学や人文科学にもあてはまるだろう。一つ例を挙げれば、京都精華大学は2000年に芸術学部内に「マンガ学科」を設置したが、これは2006年にマンガ学部として独立した。さらに2010年にはマンガ専攻修士課程が、2012年に博士後期課程が設置された。このような事例を考えるならば将来的には、どこかの学部に設置された文化資源学科・コースが独立したり、あるいは他の分野の再編を促したりして、やがて「文化資源学部」を名乗るようになることも有り得ない話ではない。

 だが、それはもう少し先のことであろう。学部を名乗れるほど、文化資源学は成熟してはいないし、そもそも学部レベルの教育に文化資源という枠組みが適切なのかどうかもわからない。「文化資源学」の教科書なるものは、現時点ではまだ存在していないのである。当面の課題は、もっと具体的に文化資源学の中味を充実させていくことであろう。

 以上のような見通しのもと、文化資源学の展望プロジェクトとして、二つのことを行いたい。

 第一に、これまで学会が行ってきたことを振り返ることである。この学会は「文化資源」の名の下に、何を行ってきたのだろうか。そして当初の目論見はどの程度実現し、どの程度はずれたのだろうか。さらに、上に述べたような状況下で、文化資源という言葉の意味はどのように変質しつつあるのか。過去に出版された学会誌を読み返したり、今の世間で流布している「文化資源」言説を眺めたりしながら、こうしたことを考えたい。

 プロジェクトの第二の柱は、既存の法的枠組みについての理解を深めることである。文化資源学会設立当初、例えば「文化財」という既存の考え方・枠組みでは捉えきれないものを「文化資源」という言葉で掬い取ることが考えられていた。実際、文化資源学会には多種多様な会員が集まっているが、その人びとの多くは何らかの形で文化財保護法(文化庁)という制度に関わるか、近接する領域に関わっているようである。しかし、「文化財」という枠組みにおさまらないものを「文化資源」と呼ぶという方針を続けるにしても、「文化財」の範囲は広く、その意味はなかなか難しい。さらに言えば、制定以来、文化財保護法は一定の成果をあげてきたが、しかしこの法律が施行されてから六十年以上が経過し、制度疲労が起きているようにも見える。これと同様のことが、「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」(経済産業省)や「現代の名工」制度(厚生労働省)などについても言える。このような見地に立つと既存の公的枠組みについての理解を深めることは、「文化資源」について理解を深める契機になりえると言える。

 以上二つの方針のもと、理事会主導という形で今後二年間、「展望プロジェクト」を進めて行く。初年度はだいたい2ヶ月おきに研究会と講演会をひらいていく。会員であればどなたでも参加できる。ふるってご参加いただきたい。


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